
金(XAU)価格は昨日下落し、前回のレポート以降の上昇分をすべて吐き出しました。本日のレポートでは、金価格に影響を与えるファンダメンタルズ要因について取り上げ、特に米ドルと金(XAUUSD)の逆相関、市場のトランプ氏の貿易戦争懸念の後退、トランプ・プーチン会談に焦点を当て、最後に金の日足チャートに基づくテクニカル分析で締めくくります。
米ドルと金(XAUUSD)の逆相関は機能していない
まず、現状における米ドルと金(XAUUSD)の逆相関が有効かどうかを検証します。過去1週間の米ドル指数(USD Index)の動きは微妙で、週初はやや下落したものの、その後は反発して上昇しました。一方、金は週を通してわずかな上昇を見せた後、月曜日に急落しました。
このため、現時点では両者の逆相関は機能していないと見ています。また、米国債利回りは8月1日に大きく低下した後、ゆっくりと着実に上昇しており、米国債利回りと金価格の逆相関も機能していないことを示しています。今後、金と米ドル(XAUUSD)の逆相関が復活し、米ドルが支えられる展開になれば、ドル高がゴールドの重しになる可能性があります。
米中貿易休戦の延長
先週を通して、市場のトランプ氏による貿易戦争への懸念は後退しました。特に昨日(月曜日)には、米国と中国が互いの製品に対する関税引き上げの一時停止を延長することで合意したことが注目されます。
さらに、NVIDIAとAMDが中国での売上の15%を米政府に支払うことに合意したことも、市場懸念の後退を示す一例です。また、金価格に直接関係する要因として、トランプ米大統領が「金には関税をかけない」とSNSで発信したこともありました。これは、米国の判事が一部の金地金輸入がトランプ大統領が発表した関税の対象になると判断したことを受けたものでした。トランプ氏の貿易戦争への懸念がさらに和らげば、金価格(XAU)は下落する可能性があります。
トランプ・プーチン会談という次の難題
また、金曜日にアラスカで予定されているトランプ・プーチン会談にも注目です。報道によれば、ロシアがクリミアとウクライナ東部の一部を維持する代わりに、和平と欧州侵攻を行わないという約束をする「領土交換」が行われる可能性が示唆されています。ただし、現状では不確実性が高く、リスクも大きい状況です。
先週、トランプ大統領は、中国とインドがロシア産原油の購入を続ければ追加関税を課すと警告しました。これは、そうした購入がロシアのウクライナ戦争資金になっているという理由からです。もし両者が合意、あるいは合意に近づくことになれば、市場の懸念が和らぎ、金価格(XAU)は下落する可能性があります。しかし現時点でロシアが合意に応じるインセンティブは乏しく、合意に至らなければ市場の不確実性が大きく高まり、安全資産としての金への資金流入が増える可能性があります。
金価格に影響を与えうる今後の経済指標
7月の米CPI(消費者物価指数)はすでに発表され、金価格をわずかに支える結果となりました。市場にとっては複雑な内容で、ヘッドライン指数は予想通り加速しなかった一方、コア指数は予想以上に加速しました。今後、同月の米PPI(生産者物価指数)が加速し、米経済のインフレ圧力をより明確に示す場合は、金価格の重しになる可能性があります。
ただし、PPIの発表が金価格に大きな動きを引き起こすには、かなり予想外の結果が必要でしょう。その他、7月の米小売売上高の発表も控えていますが、来週にかけては金融指標よりもファンダメンタルズ要因が金価格を主導する展開になると予想しています。
テクニカル分析

サポート:3245 (S1), 3120 (S2), 2955 (S3)
レジスタンス:3385 (R1), 3500 (R2), 3650 (R3)
金(XAU)は月曜日に下落に転じ、3385(R1)の抵抗線をわずかに下回ったことで、先週の上昇分がほぼ帳消しとなった。下落は、金価格の上昇傾向に一服の兆しを見せた。注目すべきは、RSIも下落し50に達したこと。これは、強気傾向が一巡し、市場参加者が金の方向性について比較的曖昧になっていることを示唆している。さらに、ボリンジャーバンドは若干の拡大は見られるものの、比較的狭い範囲で推移しており、価格のボラティリティが低い水準で推移していることを示唆している可能性があり、ひいては横ばいの動きが続く可能性がある。
したがって、価格は現状、3385(R1)の抵抗線と3245(S1)のサポートライン間で横ばいを維持すると予想している。強気派が金の方向性を掌握した場合、価格は3385(R1)の抵抗線を、今回は明確に突破し、史上最高値となる3500(R2)の抵抗線に到達しないとしても、そこを目指し始める可能性がある。弱気派が主導権を握った場合、3245(S1)のサポートを突破し、3120(S2)のサポートを目指し始める可能性がある。
IronFX上級リサーチアナリスト
ピーター・ヨシフ
公認会計士(ACA)、ICAEW会員