
強気派が大きな歩みで金価格を新たな過去最高値へ導いています。本日のレポートでは、ファンダメンタルズの観点から、①金価格と米ドル(XAUUSD)の逆相関が現在も有効かどうか、②FRBの利下げ決定が金価格に与えた影響、③今週の金取引の注目点を確認します。最後に、金の日足チャートを用いたテクニカル分析で総括します。
金と米ドルの逆相関は機能していない模様
まず、金価格と米ドルの逆相関が現在有効かどうかを検証します。月曜日には米ドルが他通貨に対して下落し、同日に金価格も上昇して新たな過去最高値を付けました。しかし過去1週間の全体的な動きを見ると、両者は同時に上昇しており、逆相関は機能していないと考えられます。また、前回のレポート以降、米国債利回りも上昇しましたが、安全資産としての金への資金流入を抑えることはできず、金価格も上昇を続けました。利回りと金価格が同時に上昇している状況は、投資家が米国経済の見通しを信用しておらず、金から米国債へ資金を移す動きが鈍いこと、あるいはFRBが今後も利下げを継続するとの見方から米国債自体が魅力を欠いている可能性を示唆しています。
FRBのハト派的期待が金価格を押し上げる
金価格を押し上げた主な要因は、FRBの利下げ決定とみられます。FRBは先週水曜日、市場予想通り25bpの利下げを実施しました。声明文では経済見通しに対する不透明感が高いことが強調されました。興味深いのは、トランプ大統領に任命されたばかりのスティーブン・ミラン氏を除く全ての政策委員が25bp利下げを支持した点で、ミラン氏は50bpの利下げを主張しました。また、FRBは年内にさらに2回の利下げ、そして2026年にもう1回の利下げを示唆しつつ、米経済見通しには一定の自信を示しました。市場の期待は全体的にハト派寄りです。一方、パウエル議長は「インフレの短期的なリスクは上方にある」とも発言しています。
総じてFRBの方向性は金融緩和の継続ですが、追加利下げを急いではおらず、今後のペースはインフレと雇用に大きく依存するとみられます。金取引者は本日予定されているパウエル議長の発言を注視しており、追加緩和に慎重な姿勢が示されれば金価格が下落し、その逆なら上昇する可能性があります。
今後の注目材料
金価格に影響を与え得る今後の重要指標として、2つの米経済データを挙げます。
1. Q2米GDP確報値
もし成長率が3.3%(改定値)を上回る堅調な内容となれば、金価格の重石となる可能性があります。逆に、成長が想定より鈍化すれば、米経済見通しへの不透明感が強まり、金価格を押し上げる要因となる可能性があります。
2. 8月PCE物価指数
総合指数は上昇が予想される一方、コア指数は前年比2.9%で横ばいと見込まれています。インフレ圧力が根強い、あるいは加速していると示されれば、FRBの追加利下げへの慎重姿勢を強め、金価格を押し下げる可能性があります。逆に、インフレが大きく鈍化すれば、FRBへの緩和圧力が強まり、金価格を支える展開となり得ます。
XAUUSD 日足チャートテクニカル分析

サポート:3710 (S1), 3575 (S2), 3450 (S3)
レジスタンス:3850 (R1), 4000 (R2), 4200 (R3)
今週のXAUUSD日足チャートでは、過去2日間、金価格は上昇を続け、本日のアジア・欧州時間の取引でも上昇し、3,710ドル(S1)のレジスタンスラインを突破してサポートへ転換しました。現在の金市場における強気姿勢を象徴するように、価格は新たな史上最高値(ATH)を更新しています。
また、RSI指標は70水準で反発し、わずかに上昇しており、貴金属価格に対する非常に強い市場心理を示唆しています。ただし同時に、金価格が買われ過ぎ水準にあり、下方修正(調整)の可能性もあることを金取引者に思い起こさせます。さらに、価格がボリンジャーバンドの上限に接近していることも同様のシグナルを示しています。
もし強気派が引き続き主導権を握れば、金価格は3,850ドル(R1)のレジスタンスを突破し、次の上昇目標として4,000ドル(R2)のレジスタンスラインを試す展開が見込まれます。
一方、弱気派が優勢となれば、金価格は3,710ドル(S1)のサポートを下抜け、先に述べた上昇トレンドラインを割り込むことで上昇基調が再び崩れた初期シグナルとなり、その後3,575ドル(S2)のサポート水準まで下落、あるいはさらに下抜ける可能性があります。
IronFX上級リサーチアナリスト
ピーター・ヨシフ
公認会計士(ACA)、ICAEW会員